携帯電話や小銭入れを、凶器を持って襲ってくる敵に投げるとか、護身具を携帯すればいいという話をよく聞く。しかし、ポケットやバッグに入っている品物を取り出して、使用するのに最低1,5秒以上を要することを認識してほしい。それも、日ごろから取り出して使う練習をしていてのことである。ナイフを持った敵が、4メートルほどの距離から飛び込んでくれば間に合わない。
ごく一般的な、日ごろ運動をしていない男性が、50メートルを10秒で走ったとしよう。消して早いというわけではない。しかし、この計算から考えると1秒で5メートル進むことになる。当然、護身武器を取り出して使用するのに1,5秒かかったのでは間に合わない。
2003年の全国護身術制圧術大会では、防衛側の選手はポケットに投げるものを携帯していた。ところが、隠れた場所から飛び出してくる攻撃側に、この投げ武器を有効に取り出して使えた選手はほとんどいなかった。150試合を超える試合数で、手にとることができたのは1~2名であったと憶えている。結局は、素手で対処することになった。時間的にはとても間に合わないし、緊張し動揺した状態では、冷静に判断し狙って投げるなど容易にできるものではない。したがって、凶器をもった敵に不意に襲われたら、とっさに携帯電話や小物を投げるというのは現実的といえない。
某テレビ局が興味ある実験をした。10名の女子大生を選びスタンガンにアラームがついた護身具を携帯させ、1週間以内にスタッフが襲うことを予告した。スタッフが実際に襲うと、このうち3人ほどが護身具を取り出せた。しかし、完全に暴漢を撃退までに至ったのは1名のみである。しかも暴漢は単独で一人。
私は以前、ヨーロッパで空砲とゴムナイフを使用して、4~5メートル程度の距離からゴムナイフでアタックされた人が、何秒でホルスターの拳銃を抜いて射撃できるかを10人余りで実験してみた。やはり早い人でも、攻撃を認識してホルスターの拳銃を抜いて構え、そして撃つのに1,5秒かかった。たとえ、拳銃という強力な武器でも手に構えて用意しないかぎり、4メートル程度の距離から突発攻撃をナイフで加える敵がいたとすれば役に立たない。しかし、4~5メ-トルといえば、かなり遠くに感じてしまう。しかも、武器を持っている安心感、これが逆に落とし穴になってしまう。たとえ、外国のように拳銃の携帯が許可されていても護身具として役に立たず、ホルスターから銃を抜いて発射するより、4~5メートルの距離から刃物を持って突進してくる敵のほうが早いのが現実だ。まして、長い凶器をもった敵が4メートル程の距離から飛び込んでくれば銃など間に合わない。
したがって、突発攻撃を受けた瞬間は、先天的な反射で敏捷に対処できるような訓練が有効な防御法となる。そして、その後余裕ができて、携帯しているものを護身武器として取り出し使用できる。
(出典:総合実戦護身術 功朗法―凶悪犯罪から身を護るサバイバルメソッド)